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WIN10年の活動と今後の展望

人工と生命

西洋の合理主義は、「人間」に対立する「自然」という概念によって、科学技術を飛躍させてきました。すなわち、ビット技術・アトム技術を駆使した高度な技術開発によって、人間に資するヒューマンインタフェイス技術を獲得してきました(図2)

他方、人間は原子爆弾を生み出し、焼畑農法で緑地を砂漠に変え、森林資源を大量消費し、ざらにはフロンガスでオゾン層を破壊し、石油を燃やし、炭酸ガスを大量に発生させるなど、人間が創る人工物が、無視できない大きなカをもつに至って、自然および人間を含むいわゆる生態系に割り込んできました。図3のように人工物が爆発的に増大してきて、生命を脅かす存在になってきたのです。

人間の叡智が創り出す無数の人工物には、その大きさに着目するだけでも宇宙ステーション、海洋都市、超高層ビル群、大深度地下都市などの巨大建造物から、バイオテクノロジーによる生物分子装置まで、広い帯域に分布しています。さらに、目に見えない人工物としては、フロンガス、炭酸ガス、亜硫酸ガス、有機水銀などや、騒音、異臭等、産業革命以来公害の源泉物が多数生成されてきました。このような人工物の中で、後者のように目に見えないものが、今、環境破壊の犯人としてヤリ玉に上がっています。人工物が巨大化・広域化するにつれ、人間、あるいは地球を含めた生命体は、自然環境を守ることの大切さに気付き、拒絶反応を本格化し始めたと見ることもできます。

ここにおいて、宇宙、地球も一種の生命体と考えるならば、もはや人間は自然と対立する存在ではなく、自然の一部として「自然系」を構成し、そして、今や対立するものは、人間が創り出した「人工物系」であるとの構図が描かれる時代を迎えたと言うべきでしょう。換言すれば、人間を中心として、それをも含む自然(生物・地球・宇宙)つまり生命体と、人工物との関係を規定する概念は「ネイチャーインタフェイスの世界」と呼べるのではないでしょうか。

図2 環境と人間の人工物 図3 人工物の巨大化


自然・人間・人工物の関係

20世紀後半になって急速に増大した人工物は、人間と自然につぐ第三の極として成長してきました。これを特に人工物の側から見れば、人工物は人間と自然という環境に囲まれた存在ということもできます。

20世紀以前では、人工物は相対的に小さい存在であったため、人間と自然のサークルで閉じられ、これら二極への影響は極めて小さいものでした。しかし、人工物が大きく成長した今世紀においては、他へ及ぼす影響が無視できなくなり、相互のインタフェイスが大きな意味をもつようになりました。つまり人工物のもつマシンインタフェイス、自然のもつネイチャーインタフェイス、人間のヒューマンインタフェイスが研究すべき対象として浮かび上がってきました。

このような学問分野を、人間・人工環境学と称するなら、これら三つのインタフェイスは、情報通信技術をもって進められるべき状況になってきました。すなわち、自然系と人工物系の対崎する構造から、人間を緩衝体として、自然と人工物を調和の構造に変革していくことが必要となってきたのです。ここに、人間にのみ資する、従来のヒューマンインタフェイス技術から、自然環境保全に資する技術、すなわちネイチャーインタフェイス技術へのパラダイム変換が強く求められています。


センサー情報通信による調和を目指して

自然の情報をセンサーでとらえて、光ファイバで大量高速伝送し、分子メモリなどの巨大記憶システムに貯え、自然の反応によっては必要に応じて、人工物の挙動を制御するシステムができれば人工物もまた自然界の中に組み入れられて、宇宙、地球、生物、人間、人工物がひとつの調和のとれた生態系を構成することになるでしょう。

ここにマイクロマシンの役割が見えてきます。温度、湿度、匂い、イオン、炭酸ガス等々の濃度分布を動きながら検知する自走マイクロマシン、大量情報を記憶するマイクロデバイス、フイードバック制御系によって協調動作を行う無数のマイクロマシン群などが活躍する場が想定されます。私たちは、現在の科学技術レベルが、このような理想を実現するには、未熟すぎることを十分承知しています。

しかし、あえて考えたい。

科学技術抜きには存在し得ない今日において、私たち人間が目指すベクトルは、巨大化・広域化しつつある人工物を生態系に組み込むこと、すなわち、人工物と自然が対立する状況を協調の方向へ導くことではないでしょうか。未来の自然科学、科学技術は、そのためにこそ総動員されるべきです。

マイクロマシンは人工物でありながら、生命体に限りなく近い特性をもち、協調して柔らかいシステム、すなわち「自然」に優しいシステムを構築する上で必要不可欠な役者となるでしょう。

現在のネットワークシステムは、自然系・人工物系とは全く別の世界に、図4の(1)のような形で、人間中心の情報通信システムが構築されています。このシステムでは、膨大な自然の情報はセンシング技術の貧困さといった理由から、わずかな情報しか取り入れることができません。

これに対して私が提唱しているのは、動物・植物を含めた自然の膨大な情報や、人工物から発する情報を取り込める新しい情報通信システム、すなわち「センサー通信システム」の構築です(図4の(2))。多様なセンサー群による太い情報入力パイプをもつ情報システムによって、自然・人工物の状態を深く、広くモニターできるシステムです。このような技術は、従来の領域別の科学からやがて傭撤型の科学へと進展する上での礎となるものでしょう。


図4 センサ通信システムの構築


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