WINヒューマンレコーダー株式会社は、研究開発型のNPO法人「ウェアラブル環境情報ネット推進機構(通称WIN)」で取組んでいる、人間情報センシングの研究開発を社会に還元すべく設立した企業です。その理念は、私が1992年以来提唱する「ネイチャーインタフェイス」という技術観・世界観に由来しています。すなわち「万物は情報を発信する」ゆえに、人間・地球・人工物のすべてからマイクロセンサで検知(センシング)し、発信情報を「見える化」すること。それにより、人間と自然・人工物の間に横たわる界面(インタフェイス)を「シームレス化」し、調和・共生の世界を作り出そうという遠大な構想です。この概念を現実のものとすべく、まず人間情報センシングに着目しました。
人間が出すバイタルサインをセンサで検知し、情報処理し、送信し、表示する、というサービスが、今後大きなニーズを生むと確信しています。昨年8月の設立以来、1年間でプロトタイプの開発、解析結果の各種表示ソフト開発、マーケット調査を行ってきました。そしてついにWINをベースにしたオープンイノベーションネットワークで開発した「ウェアラブルセンサを用いた健康情報システム」を社会に還元し、研究の成果によって世の中に貢献する準備が整いました。当社の取り組みは、NPO法人が新たな事業を創出すること、すなわち社会起業に挑戦するという、かつてない試みであります。
情報機器、微小振動学、マイクロメカトロニクスなどからなる「情報マイクロシステム」分野で研究を行っている。30年間の研究生活で一貫して情報機器の開発研究に携わり、最初の10年はデータ通信の黎明期においてキーボードプリンタの研究開発に取り組んだ。次の10年間は国家規模の巨大コンピュータシステムの大容量記憶装置の開発に従事し、テラバイト級の磁気テープ自動記憶システムや、光ディスクシステムの企画・開発・運用まで手掛けた。さらに最近の10年は、人工物が自然や人間に及ぼす影響を研究し、「ネイチャーインタフェイス」こそ、これからの環境調和時代に必要な概念であると提唱し続け、これを実現する上での重要技術であるマイクロシステム技術の研究開発に情熱を傾けてきた。また、情報通信分野への応用を目指したマイクロシステム技術の研究で、精密工学会賞などの学会表彰を5件、メカトロニクス関連で3件受賞し、その他に社内・学内表彰などを7件受賞している。
東京大学名誉教授、科学技術振興機構(JST) 領域総括、精密工学会産学協議会 副会長、精密工学会会長、日本時計学会会長、日本時計協会監事、光ディスク標準化委員会委員長、光ディスクシステム相互接続検討委員会委員長、次世代光メモリ推進委員会 委員長、特定非営利法人「ウェアラブル環境情報ネット推進機構」(WIN) 理事長、環境情報誌「ネイチャーインタフェイス」総監修
1980年代は、企業人として最先端の技術開発に携わっていましたが、これを「産業技術」と定義していました。しかし、次第に社会に真に必要とされている技術、すなわち「市民技術」を推進することに魅力を感じるようになっていきました。大学教授となってから、政府も大企業も推進することのできない技術開発を進めるには、NPO法人による研究開発が不可欠であるとの思いに至り、「ウェアラブル環境情報ネット推進機構(通称WIN)」を設立しました。当時はNPO法人がまだ珍しく、国立大学教授が理事長となる初のケースだったので、承認されるまでに時間がかかり、見切り発車の状態で設立を宣言。ネイチャーインタフェイスの概念に共鳴した約30名の東京大学教官と共に、ネイチャーインタフェイス研究所を東大内のバーチャルラボとして運営したのです。これらの内外の組織をベースに、研究支援の公的資金を獲得し、「ウェアラブルセンサを用いた健康情報システム」の開発に取組んできました。ここで培った技術をベースにWIN会員企業及び会員の協力のもと、バイタルケアネットプロジェクト、ストレスマネジメントプロジェクトというWINの組織において、リードユーザーの要望に従ってサービスシステムを構築し、社会実験を繰り返してきました。